【第14話】吉野の山から
宇治から2時間ほど。奈良盆地から一山越えて吉野川沿いを走ると、大小の製材所が集まる吉野貯木が現れます。吉野は桜の名所としても広く知られますが、木の町でもあり此処が吉野銘木として知られる中心地です。 吉野の山・木・人と出会って30年、川下の家づくりをする工務店が、川上の原木を扱う製材所と直に木を見て対話することで、無駄なく安定的に良材を得ることが可能となりました。今回は、吉野の木の家の「山・木・人」を紹介します。
吉野林業は500年の歴史があるといわれています。吉野杉は「密植・多間伐・長伐期」の施業で大径木に育てるのが特徴で、250年生の杉の山は圧巻です。淡紅色で色艶もよく木目が通り年輪幅が緻密で均一です。
一歩山に入ると、まっすぐ伸びた木々が美しく並んでいます。ほどよく間伐され、管理の行き届いた木々の足元には適度に太陽光が差し込み、豊かに下草が生えます。色鮮やかな森のジュータンです。空気は澄んでいるというより、草や木、苔や土の入り混じった匂いです。
山を維持し、管理してきたのが地元に住む「山守さん」です。吉野では、いつの時代からか山守制度が出来、資本を持つ「山持さん」に代わり「山守さん」が何世代をも超えて、一本一本の木を守り育ててきました。
「リンリンリーン」原木市の始まりです!山から切り出された丸太が、広大な市場の土場に1本ずつ丁寧に並べられます。膨大な量の杉や桧の丸太を用途に合わせて買い手が競り落とします。丸一日、2人の振り子が交代で一山ずつ掛け合いをします。丸太1本を競り落とすのに数十秒。十数人の買い手が出す合図を見逃さず、1本1本送り出す振り子の技は軽快で、皆の表情は真剣です。手塩にかけて育てた木の嫁入りです。
製材所の土場の景色は毎日変わります。昨日まで山積みされた丸太は、製材され桟積みし乾燥されます。土場に所狭しと積み上げられた角材や板材の間を、丸太や製材品を積んだフォークリフトが器用に走り回ります。工場の中は、木を挽く音で一日中うるさく、大きな音が響き渡ります。
家づくりに使う木が、どのように育ち、どのような人達の手で支えられているのか。普段知ることのない、山で活躍する山守りさんや製材所の仕事などを見ていただいき木のことをより深く知っていただくツアーです。何十メートルもある大径木を伐採する瞬間を間近で見ると迫力があります。
山を守り木を育て、製材された吉野の木材は、川下の工務店へと運ばれ、 今度は大工の手によってより一層にその魅力を引き立てます。