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【第13回】伊賀上野 散歩

三重県の北西部に位置する「伊賀上野」(伊賀市)は、江戸時代を通じて藤堂藩の城下町であった。
碁盤の目に整備された街中には、歴史や文化が色濃く感じられる建物が多く残り、観光資源としてもうまく活用され、また歴史によって培われた伝統的な産物も幾つかある。
私はこの街が好きで、自宅から車で1時間ほどで行けることもあり、これまでにも幾度となく訪れている。

風土をめぐる写真集|【第13回】伊賀上野 散歩|ツキデ工務店

街のシンボルである「伊賀上野城」。
この城は、1585年に「筒井定次」によって築城され、その後、築城の名手として知られる「藤堂高虎」が、伊勢・伊賀の二国の大名として入国し、日本一高いと言われる石垣を築くなど大改修したものである。
現在の天守は、昭和10年(1935年)に地元の名士が私財を投じて純木造で再建されたもの。

2024年12月撮影

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伊賀上野城がある上野公園の南側に、江戸時代、藤堂藩の藩士の子弟を教育するための藩校「史跡 崇広堂(すうこうどう)」が残る。
藤堂藩は文武両道を重んじ、ここには剣術や槍術などの道場も併設されていた。

2024年12月撮影

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また城下街中には、今も武家屋敷が残っている。
これは、千石の禄高の足軽大将であった「赤井家住宅」の「長屋門」。
長屋門の奥には、主屋・土蔵・茶室が残り、一般に開放され市民に活用されている。
建物は、すべて国登録有形文化財である。

2024年12月撮影

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茅葺の趣があるこの武家屋敷は、「入交(いりまじり)家住宅」の主屋。
約1,000㎡の敷地内には、主屋をはじめ長屋門・表屋・土蔵が現存する。
江戸時代から大きく改造されることなく残る貴重な建物である。

2024年12月撮影

伊賀上野には、明治期に建てられた近代建築も多く残っている。
上野公園の南側には、「三重県立上野高等学校」がある。
この学校の前身は、明治33年(1900年)に建立した旧制県第三中学校で、当時の木造の「明治校舎」などが残る。

2023年4月撮影

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明治校舎は、平屋で屋根は和瓦葺き、壁は下見板のペンキ仕上げ、窓は洋風の「上げ下げ窓」の和洋折衷の建物、今は校内活動や市民交流の場として活用されている。

2023年4月撮影

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上野高等学校の西側の道を北に向かっていくと「旧小田小学校」がある。
旧小田小学校本館は、明治14年(1881年)に建てられたもので、現存する小学校校舎としては三重県で最も古い建物である。
5ヵ年かけて復元工事が行われ、現在、資料館として公開されている。

2023年4月撮影

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伊賀上野は、山城(京都)・大和(奈良)・近江(滋賀)に囲まれた山国で、伊勢や東国を結ぶ交通の要衝であり「大和街道」と「伊賀街道」が走る。
「大和街道」は、大和・山城から伊賀上野を経由して、三重県の「関宿」で「東海道」とつながる。
「大和街道」の城下町への西の入口である「鍵屋ノ辻」には、『左ならえ(へ) 右いせみち』と彫られた道標が立つ。

2018年10月撮影

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ここ「鍵屋ノ辻」は日本三大仇討の一つ、寛永11年(1634年)に荒木又右衛門が義弟である渡辺数馬を助け、仇敵の河合又五郎を打ち本懐をとげた「伊賀越鍵屋の辻の決闘」の地である。

2009年8月撮影

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その「鍵屋ノ辻」には、「数馬茶屋」という風流な茶店があったのだが、残念なことに今は閉鎖されている。

2011年10月撮影

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また、「伊賀街道」は、伊賀・伊勢の二国を治めていた藤堂家の「津の本城(津城)」と「上野の支城(伊賀上野城)」を結ぶ重要な「官道」であり、津で「伊勢街道」とつながり伊勢への「参宮道」としても重要な道であった。
「大和街道」と「伊賀街道」の街道沿いには、今も大型の町家や蔵が残り、その幾つかは宿泊施設や店舗として活用されている。

2024年12月撮影

風土をめぐる写真集|【第13回】伊賀上野 散歩|ツキデ工務店
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2019年10月撮影

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城下町「伊賀上野」は、「奥の細道」で有名な江戸時代の俳人「松尾芭蕉」が生まれ29歳まで過ごした地でもある。

2016年8月撮影 「忍者市(伊賀上野市)駅」の前に建つ俳聖「松尾芭蕉」の像。

「大和街道」の近くには、芭蕉の生家とされる町家がある。

2016年8月撮影

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街の南には、芭蕉の高弟である「服部土芳(どほう)」の草庵がある。
庵開きの祝いに芭蕉がここを訪れたとき『蓑虫の音をききにこよ草の庵』の句を贈ったことから「蓑虫庵」と呼ばれている。木立に囲まれた庭園内には、わびさびの風情が漂う。
芭蕉を生んだ伊賀上野では、今も俳句が盛んである。

2024年12月撮影

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「伊賀」と言えば「伊賀忍者」、ここは「忍者の街」でもある。
戦国時代、伊賀国(いがのくに)では、多くの地侍が割拠し、各地侍が勢力を保つために、情報収集戦やゲリラ戦を日夜繰り返し、ここから「忍者」が自然発生したと考えられている。
上野公園内には、移築された忍者屋敷屋がある。

2024年12月撮影

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公園内には、迫力ある忍者ショーや手裏剣打ち体験道場などもあり観光客に人気である。

2010年10月撮影

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公園内やその周辺には、かわいらしい忍者やくノ一があちらことらで出没するのも伊賀上野ならではの風景。

2011年10月撮影

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街の中心部を走る「大和街道」沿いに、菅原道真を祀る「上野天神宮」が鎮座する。

2017年5月撮影

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「上野天神宮」では、秋に「上野天神祭(上野天神宮のダンジリ行事)」が行われる。
絢爛豪華なダンジリ曳きと鬼行列などが行われる祭りで400年余りの歴史があり、ユネスコ無形文化遺産、国指定重要無形民俗文化財に登録されている。
私は、2010年10月に偶然この祭りに遭遇した。

2010年10月撮影

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伊賀上野には、伝統的な産物がいくつかあるが、その一つが「伊賀焼」。 隣接する滋賀県の「信楽」と共に周辺には、陶土と薪となる燃料が豊富にあることにより陶芸が盛んで、5世紀ごろの発祥とされている。

2025年1月撮影

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伊賀焼の窯元や伊賀焼伝統産業館がある、のどかな田園風景が広がる伊賀市の「丸柱」地区。

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地区内にある窯元である「長谷園」の16蓮の登り窯。
この登り窯は、江戸時代、天保3年(1832年)の創業時より昭和40代(1970年頃)まで使われてきた窯で国登録有形文化財。

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そんな関係で「茶の湯」が盛んだったのであろう、伊賀上野は小さな田舎の街ではあるが和菓子屋がやたら多い。

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そしてもう一つの産物は、和装に欠かせない「組みひも」。 全国に出回る多くの帯締め・羽織ひもがこの伊賀で製造されているそうである。

2024年12月撮影

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上野公園の近くにある「伊賀くみひも 組匠(くみ)の里」では、展示場や体験教室などがある。

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ここ地の伝統産業であったのか定かではないが、21年前に訪れたとき上野天神宮近くの空き地で「番傘」を干す光景を偶然見かけた。 江戸時代、下級武士の内職として「傘造り」が行われていたのかもしれない。

2004年10月撮影

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ほかにも伊賀地方では「伊賀牛」がブランド牛として有名である。
私は、伊賀上野に訪れた際は、お決まりで「ストーク」という1956年創業の老舗洋食店で、創業以来絶やすことなく継ぎ足し熟成させたデミグラスソースのタンシチューをいただく。この肉が伊賀牛かどうかはわからないが絶品である。

2024年12月撮影

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「伊賀上野」散歩、この街は何度訪れても飽きない街である。

2016年8月撮影

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