竣工:2020年9月
延床面積:住宅棟98.25㎡(29.8坪)
店舗棟99.75㎡(30.2坪)
この建物は、ツキデ工務店の地元である宇治の観光名所であり日本三古橋の一つでもある「宇治橋」に通じる「宇治橋通り商店街」沿いに建ちます。
そして周辺には古いたたずまいの宇治茶の店や連子格子のある町家が残り、時代の流れで街並みが変容している中でも宇治の貴重な歴史的景観が感じられる場所で、宇治市の「景観計画重点区域」にも指定されています。
今回ご紹介する2棟の建物は、その宇治橋通りと路地に面し敷地面積214㎡(73坪)の細長い敷地に建ちます。 宇治橋通り側が平屋のテナント用店舗、そしてその奥が2階建ての住宅です。
今回の計画では、宇治の貴重な歴史的景観を大事に考え、情緒ある街並みに溶け込むような建物にすることを心掛けました。 具体的には、無垢の木を現しにした和風建築とし、瓦屋根・化粧垂木・漆喰・焼き板・出 格子などで仕上げました。 とりわけ店舗の建物は、路地沿いに建つ京町家の連棟の借家をイメージしました。
ただこの建物が建つ宇治橋通り商店街の用途地域は「商業地域」で、商店などが密集して建つことから、火災が発生した場合、延焼を抑えるため建物の構造などを制限する「防火地域」に指定されています。 防火地域内での建物は、鉄筋コンクリート造や鉄骨造といった燃えにくい素材の「耐火建築物」であることが求められ、燃える木を現わしにした木造建築にとっては非常に厳しい制限がもうけられています。 ところが下記の要件を満たすと無垢の木を現しにした木造建築も可能となるのです。
1. 二階建て以下であること。
2. 延べ床面積が100㎡以下であること。
3. 準耐火建築物であること。
そして今回の計画では、この三つの要件を満たした建物としました。
ところがその準耐火構造にするためには、耐火建築物の規定ほどではないですが、厳しい規定があります。 例えば外部に無垢の木を見せようとすると、すべて12.5mmの石こうボードの上に鉄板を張ることが求められ、現しの桁・母屋はそれらを張った上に後付けしなければなりません。
杉の焼板や桧の腰板も12.5mmの石こうボード・鉄板張りの上に張っています。
また出格子も防火サッシを取り付けた外側に、12.5mmの石こうボード・鉄板を張り、後付けしています。
そんな手間がかかる建築的工夫のもとに仕上がった玄関周り。
玄関内部。
下駄箱の戸は、顔料で染めた手漉きの「美濃和紙」張りです。 天井の吉野杉板張りも準耐火構造にするために15mmの石こうボードを下張りしています。
玄関横に設けた6畳の和室。
一般的に和室の壁は、構造材である柱を化粧として現しますが、ここでも準耐火基準で柱の上に15mmの石こうボードを張る必要があるので、柱が見えない「大壁」とし和紙を張り仕上げました。
和室の「雪見障子」越しの庭の眺め。
1階の寝室の掃き出し窓のからも庭を眺めることができます。
十分な収納を設けた1階水回り。
家族が集うLDKは、まわりが建物で密集していることから、日当たりがよく開放感が得られる2階に設けました。 本来、準耐火構造では通常の太さの柱・梁だと現わしにすることができないのですが、「燃えしろ設計」で太さを18cm以上とすることで現わすことができます。 今回、18cm幅の吉野桧の梁を3本現しにしました。
延焼ライン内の窓ガラスは網入りガラスか防火シャッターが必要です。 防火サッシの前に取り付けた花台。
LDKに隣接するこども室。
無垢の木現しの和風建築を建てるのにはハードルが高い防火地域内において、宇治市の「景観計画重点区域」で建てたこの建物。 歴史的景観を守り風情ある街並みを形成する建物にするには、かなりの建築的工夫が必要で、それなりの費用・時間がかかることとなりました。 これはお施主様のお好みもありますが、街並みを思う高い意識があったからこそ出来たことです。 今後行政が、防火地域内で景観計画を推し進めていくためには、条例等で緩和などの何らかの処置を講じると共に、十分な補助金を出すなどの支援が必要かと強く感じました。